コロナ禍の後で求められる建築とは?

KATADA Lodge&Villa 三重県津市
ロッジ・ラウンジ・ヴィラの3棟は各々独立しており、必要な心理的距離を持つように設計している。

首都圏も非常事態宣言が解除されました。
コロナ禍で以前とは全く世の中の流れがすっかり変わりました。そしてこれからも変化していくことでしょう。
あたりまえがあたりまえでなくなった今、「カタチあるものはいつかは滅びる…」ということを世界中が目の当たりにしているのではないでしょうか。

オンライン化が進み、働き方やライフスタイルが変わっていくことにより、建築の形態も大きく変わっていくと感じています。
家族や地域という単位やリレーションシップが見直され、また、ソーシャルディスタンスをふまえた人と人との距離、オンラインなども含めたコミュニケーションの方法なども劇的に変化していくのでしょう。

特に、コロナ禍前までは、都心の高いところにある洗練されたオフィスや高層マンションは、単純なまでに、会社や人のステータスを意味していました。
しかし、昨今の災害や疫病の流行により、いよいよデメリットのほうが目立つようになりました。もはや大きい・高い・高価=優れているなどの価値観は崩れてしまっているように思います。

また、これからは、働く場(オフィス)が住む場所(住まい)と密接にリンクしていくようになるでしょう。それに、自然も人間とかなり密接なものとなると思います。建築のあり方は、急速に、大きく変化していくでしょう。

しかし、実はこの傾向、私は10年くらい前から感じていました。このころから、敏感な人々は何かうすうす感じはじめていたと思います。というのも2010年あたりから「快適な空間とは?」や「ストレスのない空間とは?」などのテーマでの講演や取材の依頼が殺到したからです。

住まいの役割は変化している

こちらは7年前(平成25年11月)に石川県金沢市で講演した際に使ったパワーポイントの資料です。テーマは「ストレスのない家」でした。

マズローの欲求5段階説

講演では、価値観の変化を説明するのに、私は心理学者アブラハム・マズローの欲求5段階説であるこのピラミッドを使います。

1番下(赤)食欲や性欲などの本能ともいわれる欲求。
2段め(橙)安全であることの欲求。
3段め(黃)友情や愛情などのリレーションシップの欲求
4段め(緑)認められたいなどの承認欲求
5段め(青)自己実現の欲求

住まいの役割(つまり価値観ですね)もこの欲求に沿ったカタチで変化し続けています。特に、15年前くらいから、人々は見栄やステータスよりも自分の深いところにある欲求を満たしたい、と思い始めていたようです。

講演翌朝、宿泊先のホテルで配られた朝刊。自分が載っていたので、かなりギョッとしました(笑)



当時は自己啓発本や自分探しのようなものが流行っていました。だからでしょう。自分の夢を実現することを住まいに求める人々が増え、私のような建築家に依頼する人が増えました。

では、自分らしく、快適にストレスのない住まいやオフィス空間とは何か?と言いますと、それはカタチや言葉など見えるもので表現するとするならば、住宅ですと趣味の部屋や書斎、アトリエを持つこと、オフィスは環境が働き手にとって均一に優れていることや効率の良さ、あるいはアンデンティティに沿ったデザインです。私自身もこれまでに様々な工夫をしてきました。

「葉山一色海岸の家」
階段の踊り場を一部張り出し、アトリエとした。



しかし、私が最も大切にしているのはそこではありません。
では、何かと言いますと「見えない部分のほうをどう作るか?」です。
つまり壁、床、天井で囲われた空気しかないところ、「空間をどう作るか?」に注力します。まさに、ディスタンスそのものです(笑)
さらに、動線などの空と空のつながり、人間の身体でいうと、気の流れのようなもの、を感覚的に捉えながら目に見えるカタチに表現していきます。

これらを作る過程を少しでも雑に設計という仕事をしてしまうと、居心地の悪い空間、使い勝手が良くない動線、さらに、美しくないみっともない建築となってしまいます。

最近では、建築家がデザインした風のデザイン(笑)がネットなどで多々見受けられるのですが、どれもこれも同じに見えて仕方ありません。心に響かないのは、何か存在感のようなものが全くないためです。建築が生きていないのですね。

その違いは何かというと、作り手の気が見えない部分までいき届いているか否かです。

見えない世界に価値が向かう

ITの世界しかり、ウィルスの世界もしかり、目に見えないものです。そして、このように建築の本質も実は見えない世界を秩序づけることなのです。かつ、どれもこの世に存在する、現実でのこと。だから建築を設計していくことは恐ろしく労を要するのです。

私はこの世の中で、目に見えているものは全体の3~5%くらいだと感じています。これからは、目に見えない95%前後の世界に価値が問われていく世の中になると感じています。(スピリチャルを肯定しているのではなく、目に見えない世界も現実です)

目に見えない部分が大切だからこそ、瞬時に本質を見極めることができる身体とマインドを養うことが日常において、とても大切になっていくでしょう。おおかたの本質は目に見えませんし、マインドが汚れていたら決して見ることはできません。

しっかりと見えない世界をも秩序づけられた本質的な建築が多くの人から求められるようになるでしょう。新しい、がしかし、昔からあり続けていた建築様式に価値があがると予想しています。